口にくわえるタイプは婦人体温計だと思います。基礎体温のグラフのように、日々変化する身体。それに対する主体の思いのようなものが少しでも示されると、ぐっと入り込みやすくなるかなと感じました。「弄ぶ」がやや気だるさを表しているのかな。
大葉れい
婦人体温計があると、「明日には違う身体」がなんだか意味深です。明日には妊娠するのでしょうか。でもそんなに計画通りにいくものではないですよね。「妊娠するといいな」ではなく「明日には妊娠する」って気持ちは、なんだか怖い感じもします。あるいは、たとえば婦人系の病気の治療が始まったり、なにか薬を増やすようなことがあったり、手術があったりするのかな。そっちの方が「弄ぶ」にしっくり来る気がします。妊娠を望むなら、もっと真剣な感じになるのではないかなーと思ったので。その治療が始まらないと妊娠できない、治療の一環としてやってるけど成果がイマイチ出てない、もう明日には子宮をとってしまう、などなど。そんなことがありつつ、今までしてきたことの止めどきが分からないままここまできてしまったような。妊娠、出産、生理の存在、そういう女の体であることを突き放せない感じが「弄ぶ」にある気がします。
ゆら
比喩が巧みに思いました。
紫苑
違う体になっているという真意はこの歌だけではわかりません。心の繋がり方かもしれないし、手術のような非日常かもしれません。でも下句の気だるい様子がなぜか魅力的な女性を思わせてくれます。そのしぐさの裏に違う体になる大きな覚悟があるような気がしました。
気球
「違う身体になっている」が、生命の誕生を想起させ強く印象に残る歌でした。「なっている」「弄ぶ」と現在形で自分の身体の変化を客観視しているのもいいです。全体の流れもよく、舌で体言止めにしているのも官能が伝わってきます。体温計は男性にはない視点なのかと感じます。
太田青磁
はじめ意味がわからなかったのですが、皆さんの評の「手術」という言葉ではっとしました。「体温計を弄ぶ舌」という表現から主体は女性だろうと思いますが、それを詠むからには「違う身体」は口まわりの何か、或いは女性性を喪失するような何かなのではと。そうだとしたら非常に重いです…。一方、身体は日々刻々と新陳代謝をするわけで、一日として同じ身体ではないと、風邪などで寝込みながら思いを巡らせている様子にも読めます。良い意味で古風な、味わいある歌だと感じました。
蒼井灯
女性の体は一生のうちに何回も変わっていくものですが、それを体温計を用いて表現することでより鮮烈に思い知らされるように感じました。確かに男性にはないものです。
双葉屋ほいる
体温計は「舌」を出していることから口に咥えて計る婦人体温計でしょうか。「明日には違う身体になっている」「弄ぶ」というワードから、女性特有の自分の身体にまつわる不安を感じます。女性は常に自分の体と向き合って生きているから。では「違う身体」とはなにか。たとえば基礎体温を計っているので月経の開始日だったり排卵日がわかりますが「明日には」という確信が持てているところに「女の覚悟」のようなものも垣間見れ、女って強い・・・と感じました。
河嶌レイ
上句下句を逆に置きたい歌だと思いました。が、女性のからだの日々の変化と、それと向き合う主人公の心理、かすかな憂鬱を伴う愛着のような心持ちが感じられて、素敵な歌だと思いました。
中牧正太
良い歌とは、それと似た状況に自分が出逢うたび、ふっと思い出されるもののように思います。こちらの作品も、わたしの人生でこれから何度と蘇ることになりそう、そんな風に感じました。
作中場面は妊娠か手術かまたは風邪か、総ての読みで意味は通り、どれも間違いでないと思います。日々刻々と変化する体温、その今一時を留める。ただ、その些細な情景の中に今日と「違う身体になっている」という発見があり、さらにそこから読者の思いは流れ続ける人生の存在にまで広がっていく。
今回詠題の『今』へ考えを起こさせ、また短歌の妙味(それが無限の時間からほんの一端を切り取って人の心に触れるものになることとして)を作ることも成功された一首かと特選させていただきました。
手法を振り返ってみます。上句「明日には違う身体になっている」は平易な語を使い、その意味は誰にも容易く理解できながら強いメッセージとして心に届く。多くの歌と並んでも自然と浮かび上がる句に見えました。下句へ緊張感を持って解を求める読者に用意されたのは、拍子抜けなほど淡々と「体温計を弄ぶ」だけの場面。ただそれが利いている。意味深な上句と並ぶことで、下句の何気ない一コマに重みが与えられる。それが「明日は大きな転機が控えるはず」と受け取られたり、「小さな一瞬こそがかけがえない」と受け止められたりと。大きな言葉と小さな事象の掛け合わせから出来たギャップが三十一文字に深さと重さを、そして前後には余白を作る。作歌セオリーとしても参考になるものと思いました。
管理人
「手術」と言ったやつだけど、これは具体的にどんな変化なのかを当てるのではなくて、読む人によって、またそのときどきによって「こんな感じかな」といろいろに想像できる柔軟さが魅力ですね。
ゆら
「舌」という言葉から口で体温を測っていることが分かるのと、「弄ぶ」という言葉から官能性を感じたので、基礎体温を測っている女性、とりわけ「妊活」をしている女性の歌かなと思いました。「明日には違う身体になっている」ということは、「今夜子を宿す予定がある」ということだと思ったのですが、そこには第六感なのか、確信めいたものがあって、どこか呪術的、魔術的な要素やしたたかさも感じました。色気があって、狂気や恐ろしさも感じられる、好きな歌です。
龍翔